ゴジラー1,0に見る世代間格差

映画

 戦中戦後は、とにかくみんな生き残ることが第一だった時代なんだなつまり。その辺りを改めて考えると、この映画の見方も違ってくるだろう。
 主人公の敷島が、特攻を忌避して名誉の戦死を逃れたことと、南方で初めてゴジラと対峙したときに機銃で殺せと命じられたが、それを躊躇った故に東京がゴジラに蹂躙されてしまうことに責任を感じていた描写はわかる。


 ゴジラこそ架空のものであるが、これは戦中戦後あちこちにあった日本人の感覚なのではなかろうか? あのときおれがこうしていれば戦友は死ななくてすんだのにとか、あのときもう少し頑張れば家族を助けられたのにとか、その大概のことに人の生き死にが関係していた時代。
 現代では人の命がとても重く扱われるので、当時の人たちの感情は理解し辛いだろうが、昭和中期まで戦災で死ぬなど普通の死にかたで、太平洋戦争では日本人が310万人も亡くなっている。昭和二十年当時の日本国民人口がおよそ7200万人だから、23人に一人が戦災によって死ぬ計算になる。4~5%の死亡率になるが、これを多いと見るか少ないと見るか? 東北大震災での東北三県(福島、宮城、岩手)が、人口およそ540万人の中で、死者行方不明者およそ2万人であるから、およそ270人に一人がお亡くなりになっている。戦争と震災ではその期間が違うから並べるのはおかしいと思うかもしれないが、家族を失う辛さに違いはないので、単純に十倍以上家族を失う確立に違いがある出来事だったわけである。阪神大震災では、当時の兵庫県民人口が560万人で、死者数が6000人であるから、933人に一人が亡くなっている計算になるか? いや、地震の影響があったのは直下型地震であったことから、せいぜい神戸を中心に尼崎から明石くらいと考えたら当時の人口がせいぜい200万人くらいだろうから、333人に一人がお亡くなりになっている計算になるか。

 これをもってしても戦災は、日本国民に降りかかった未曽有の大惨事と言うことがわかると思う。
 しかし、前にも書いたことだが、当時の日本国民は西洋諸国が日本を占領したらすべての男は奴隷にされて、女は売春婦にされると考えていたので、必死になって戦うのは当たり前だったのだろう。何度も書くが、日本は豊臣秀吉の時代から西洋諸国が東南アジアで行って来た非人道的な植民地政策や奴隷貿易を知っていたので、この考えになるのは当然のことであったのだ。奴隷制度を取ったことのない日本では、奴隷なんてのはとんでもなく非人道的であると映っただろうし、これは当時の世界情勢から見て仕方がない。
 戦争だけではなく、昭和初期~中期ごろの日本では、まだ抗生物質が無かったので、結核や梅毒が不治の病なり簡単に死んでいた。私の叔母が昭和二十一年生まれで、終戦後の日本で小児肺炎に罹って死にかけた経験を持つ。そのときに医師から「米軍の闇物資でペニシリンと言う新薬があって、これを使えば或いは助かるかもしれない。五十万円になります」と言われて、一縷の望みを託してこれにかけたら嘘のように叔母の熱が引いたと言っていた。祖母は常々、「おじいさんはよくもあんなお金を隠しとってくれたもんよなあ」と言っていたが、当時の五十万円は現代の7500万円になる計算だから、これはもう命がけです。
 主人公敷島の心情を推測するために役立つだろうか? こんな背景があってこの映画が成立する。いや、違うかもしれないが……。いくら敗戦国とは言え、日本は元々国際連盟常任理事国であり、すでに世界五大大国であったのにも関わらずこんな按配だ。世界中がまだまだ未開だったころなので、これが英米でウケたってのは、その背景について分かり合えるのが、むしろ日本人同士より敵国の人たちのほうが、あの戦争についてよく理解しているからなのかもしれない。
 その終戦後の混乱を生き延びた叔母も2001年に白血病で祖父母より先に鬼籍に入ってしまった。いつも何かの年月を説明するときに「今年は終戦後何年かあ」などとよくわからん物差しで年月を計っていた祖父が、「今年は終戦後六十年になるからおかしなことが起きる。気を付けないとなあ。終戦後五十年で阪神大震災、終戦後四十年のときは日航機墜落」と言っていた2005年にはその祖父が鬼籍に入った。その五年後の2010年には祖母が亡くなった。戦争はあの時代の人たちにとって、とても重要なことであったと同時に大いにトラウマを残した。


 この映画を観て戦争賛美だと文句を言う人はおるまいと思ったのだが、やっぱりそんなことを言い出すバカはいた。あの戦争で主敵だった英米で絶賛されているのに、そもそも第二次大戦に自力で参戦することすら出来なかったような奴らが文句を言うらしい。
 そんなのはともかく、私はこのチープな映画を難しいこと抜きに楽しんだ。そして米軍と戦った先達には悪いが、アメリカ公開時の劇場外での観客インタビューで、デブのオタクっぽい白人がゴジラを絶賛していたのを見て(何故かインタビューされていた観客がデブのオタクばっかりだった)私は「やっぱり日本の同盟国はアメリカしかないな!」と思った。だって私は不吉な年の終戦後三十年にあたる昭和五十年(1975年)生まれだからこんな裏切り発言も仕方がない。来年(2025年)は終戦後八十年になるが何が起こりますやら?
 誠にダメな子孫になってしまったものである。そんな心持ちでも今日(2024年五月六日)は祖母の命日なので、この後墓参りに行こうと思う。墓前でいくら謝っても足りないんですけどね。

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