東野圭吾のススメ

書籍

 東野圭吾は優秀な作家だと思う。歴史に名を遺したコナンドイルやアガサクリスティーや夏目漱石を差し置いてと思われるかたもいるかもしれないが、考えてもみて欲しい。夏目漱石もコナンドイルもアガサクリスティも江戸川乱歩も東野圭吾の作品を読んだことは無いだろうが、東野圭吾はそれらの偉大な作家の作品を読んだうえで創作活動を続けているのだ。
 タネのバレた奇術師よりそうでないほうの奇術師に魅力があるのは当たり前であり、過去の作家の作品を養分にした未来の作家の作品のほうが優れていることを否定は出来まい。
 ドラマや映画にされる作家ナンバーワンなのかな? もうこうなると原作読まなくてもみんな題名とキャラくらいは知ってそうだ。ガリレオシリーズも良い。加賀警部補も良いなあ。
 かつて『名探偵の掟』で推理小説家の悲惨さを東野圭吾自身が暴露してくれていたのには大いに笑えた。曰く、密室殺人事件なんて陳腐なトリックは、日本人作家と読者くらいにしか馴染みがないとか、ドラマ化映画化の際には不自然に女キャラが追加されるとかである。


 しかし大変だなあ。ついぞ最近の『セクシー田中さん』問題でも思ったのだが、作家は独りで作品を作ってそれに魂を吹き込むんだつもりでも、結局それを経営的に成功させるためには多くの人手が必要であり、スポンサーの利益や制作会社の芸能界人脈など大人の事情が絡んで作品はどんどんデチューンされる。いや、デチューンばかりではないはずだが、これが最適解と信じて書いた原作者からしたら何もかもデチューンなのだろう。


 アホなんですねえ日本人。『名探偵の掟』では、天下一探偵と大河原警部が掛け合いをしながら話が進む。これは正にシャーロックホームズとワトソン博士のパターンをパロディ化したものでしょう。どんな作家にもこんな面白い二人のやり取りは書けない。


 そこへ行くと東野圭吾は偉いなあ。ドラマにもなっているガリレオシリーズは、湯川博士と草薙警部がおっさん同士の掛け合いで、ホームズ&ワトソンのような面白さにつなげる作品なのに、柴咲コウの役どころ追加でその部分の面白さがまるきり削られてしまっている。
 こんなもんよく許したなあ……。


 実際、推理小説はトリックや動機につながる人間関係や衝撃的なオチなどを考えるのがすごく大変なのだろうと容易に推測される。東野圭吾もこの作業に疲れたのか、途中で「投げた」なと思うような作品も無くはない。『ダイイングアイ』のオカルトオチなんかは金返せとなるところだ。
 しかしそれも含めて面白いんだなあ東野圭吾。さすが留置場や拘置所の貸し出し官本に最も多くの作品が置かれている作家だ。

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