農協月へ行く　筒井康隆著

趣味は何ですかと聞かれ旅行などと答え
外国にも何度かなんて格好つけてみせる

　この手の短編集は昔から大好きで、私の読書遍歴の中でまず外せないのは、『ケイブンシャ大百科』など一連のシリーズだった。
　本シリーズの中で、夏休み中なんかによく書店に並ぶ『恐怖の心霊大百科』みたいなやつを、毎年祖母にねだって買ってもらっていたので、私の夏休みの思い出は『ケイブンシャ大百科』と共にだったわけです。何なら夏休みの宿題の読書感想文ですらケイブンシャ文庫で書いててもよかったくらいなのですが、そんな蛮勇は振るったことがないから、子どもながらに最低限の恥じらいはあったのだと我ながら感心する。今にして思えば、ケイブンシャ伝説の『毒電波先生』辺りで読書感想文でも書いておけば、今ごろ黒歴史としてうつ伏せで枕に顔をうずめて足をバタバタさせながら恥ずかしがれたものをなと言う惜しさも無いではない。

　短編怪談集みたいなノリで、筒井康隆は多くのエログロナンセンスコメディなんてよくわからんジャンルを形成した人と言える。社会風刺が鋭くて、一部の人からは差別的だなど色々アレコレ言われるようですが、私は誰が何と言おうと好きですな。
　そこへ行くとさしずめ本作は農協差別なのか田舎者差別なのか、はたまた成金差別になるのでしょうか？　むしろ差別にもっとも走りやすいのは田舎の地主やお上りさんや成金のような気がするが、それもまた差別思想なのだろうか？
　それはともかく、『農協月へ行く』は今調べてみたところによると、１９７３年発表の作品らしい。勝手な思い込みでバブルのころの話かと思っていたのだが、それよりずっと以前だったのか。１９７３年と言えば、オイルショックの年であり、そのころの世相は私が生まれる前なので私にはわからないのですが、後の１９８７年から１９９０年のバブル景気に浮かれていたころは、ちょうど私が学生から社会人になるころだったので想像がつく。むしろあのころを知っている世代は、良くも悪くも人間の愚かさ醜さを思う存分見られたのではないだろうか？

　バブルのころの日本人は心底軽蔑すべき人種だった。あのころにアジア神風買春ツアーに行っていた日本の猛烈サラリーマンを恨んで、現代の韓国人が従軍慰安婦などのでっち上げを始めたのも気持ちはわからなくもない。
　しかし、戦地での売春をネタに美人局する韓国人と、バブルのころの下劣な猛烈サラリーマンはその下劣さに違いは無さそうだ。
紳士にはなれなくてもせめて下種野郎にはなるな。ｂｙチャール・ズブコウスキー
　農協月へ行くなら他の星の農協も月へ行って、そこでマイナスとマイナスが合わさってプラス要素に転換出来ることもあるのかもしれない。いや、そんなことは絶対に起きない。人間は少なくとも理性や知性が備わってないと何も発展的なことは起きない。馬鹿な成金や田舎者や教育水準の低い途上国の国民が集まったとして何も良いことは無いだろう。それが証拠に日本のバブルのころの文化は薄っぺらくて、ディスコのお立ち台もトレンディードラマも何もかもが残らず恥ずかしい思い出になってしまった。
　各国、各人種、各地域それぞれがみんなの利益を守るために、ある程度のルールやセオリーを定めて切磋琢磨するから世界は発展するのであって、野蛮人や野生動物に文化交流や共存共栄なんてあるはずがないんですよ。
　旅行してそれをインターネットで自慢して他人に勝ち誇るとか野蛮人の行いとしか思えない。
　デジタル成金蛮族ばっかになって気持ち悪い世界になって行くなあ。